碧い月夜の夢
「良かった…あれ? 全然、動けない…」

「ったく…」



 立つことすらままならない凛々子を抱き上げ、レオンは苦笑して。



「最初に会った時とは別人だな」

「だって…レオンが教えてくれたんだよ。あたし、本当に1人じゃなかった…だから教えてあげたかったの。レオン、あなたも、1人じゃないって」

「…もう、分かってるよ」



 レオンは、凛々子を抱き上げるその手に、力を込めた。

 その腕に身を預けて、凛々子はあまりの心地よさに、目を閉じる。

 凛々子も本当に、感謝していた。

 ほんの何ヶ月か前までは逃げて逃げて、周りを見ようとすらしなかったのに。

 テルラと繋がって、レオンに出会ったから、前に進む事が出来た。



「まぁ、変わってねェのは泣き虫なとこだな」



 レオンは、そう言いながら視線を遠くに送っている。

 思わず凛々子も顔を向けた。

 その先の空間が、まるっきり違う物になっている。

 全く違う場所の写真を、テープでくっ付けたような空間。

 そこは、あの公園だった。

 何故かサヤカが立っている。

 公園の隣には、凛々子がバイトをしてカラオケボックスがある繁華街。

 その中には、桜井浩司の姿があった。

 そして、その隣には、海の前の喫茶店。

 その前で佇む悠の姿。



「あの人達が、いつもあたしを助けてくれたのよ」



 凛々子は言った。



「迎えに来てくれたのかもな」

「迎えに?」

「あァ、時間、だ」



 こっちを向いて、レオンは笑う。

 その笑顔は、悲しそうで。

 凛々子は白んできた夜空を見上げ、それからレオンの顔を見た。

 何処か、不安を感じて。



「立てるか?」



 レオンは、凛々子をそっと下ろす。

 何とか自分の足で地面に立ち、レオンの顔を見上げて。



「レオン…あっ、あのさ、また…」

「テルラはもう、心配ない。みんなきっと、少しずつ前みたいなテルラに戻せるように、きっと動いてくれるさ」



 凛々子の言葉を遮って、レオンは言った。

 まるで、凛々子の言葉をわざと聞き流しているかのような、レオンの態度。

 凛々子の不安は、どんどん増していく。
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