碧い月夜の夢
「オマエも、もう大丈夫だな?」

「…………」



 レオンの姿を、もっと見ていたいのに。

 もっとちゃんと、この目に焼き付けておきたいのに。

 何故か視界が歪んで、レオンの姿がボヤける。



「ホント、泣き虫だな」



 レオンは苦笑して、一歩近付くと凛々子の目尻を、親指でそっと撫でた。



「オマエに会えて…本当に良かった」

「………」



 言葉が出て来ない。

 それなのに、涙だけは後から後から溢れて来て、息も苦しかった。

 レオンも、そんな凜々子を、唇を少しだけキュッと結んで、じっと見つめて。



「言っただろ。この世界に、唯一ある時間」

「やだ…」

「我儘言うなよ…」

「やだ…!!」



 子供みてェだな、と、レオンは凛々子をそっと抱き締めた。

 しゃくりあげながら、凛々子はレオンにしがみつく。

 まだ、言っていない事があるのに。

 この匂い、この腕。

 息づかい。

 ――…離れたくない。

 こんなに、好きなのに。

 そんな凛々子の想いに答えるように、レオンは抱き締める腕に、力を込めた。



「言葉じゃ足りないほど、オマエには感謝してる。オマエがいなきゃ、テルラは何も変わらなかった」



 そんな、もう会えないみたいな台詞は聞きたくなかった。

 だけど悲しくて、切なくて、後から後から涙が溢れて、言葉を発する事が出来ない 。

 そんな凛々子の頬を両手で包み込むようにして持ち上げながら、レオンはこっちを見つめた。



「本当に、ありがとな…凛々子。俺は、オマエの事ーー」



 その言葉を聞いた後、凛々子の身体はふわりと浮き上がるような感覚に襲われた。

 同時に、意識が遠退く――。
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