親友を好きな彼


「おはよう!嶋谷くん!」

「お、おはよう佐倉」

ハイテンションの私に、聡士は目を丸くした。

デスクに着きパソコンをつけると、聡士がお決まりの様にイスを滑らせてきたのだった。

「何かいいことあったのかよ?あれから」

''あれから''…。

大翔とのキスシーンを見られたのは、今でも正直ショックだ。

聡士には見られたくなかった。

だけど、これもチャンス。

聡士に惹かれる自分の気持ちはウソじゃない。

それを認める。認めた上で、私は幸せになれる方を選ぶことにした。

そして、聡士の幸せも…。

「見てよ嶋谷くん」

カバンから取り出した鍵を、聡士に得意そうに見せたのだった。

「何だそれ?」

「大翔の家の鍵よ」

「大翔の!?」

驚く聡士を尻目に、鍵をカバンにおさめる。

そうなのだ。

今朝、大翔の家を出る時に、合鍵をもらったのだった。

「ちょっと待てよ。何で、そんな物持ってるんだ?」

「何でって、いつでも行けれる様によ」

「お前たち、本気でやり直したのか?」

「それはまだ。ただ、前向きに二人で歩くことにしたから」

最初の頃もそうだった。

知り合った時も、急に「付き合おう」と言われたわけではなく、自然とそういう関係になっていたのだ。

私たちには、それが合っているのかもしれない。

唖然とする聡士に、私はわざとらしく言ったのだった。

「そうそう、週末飲み会するのよね?大翔は行けれないんだけど、私は行っていいって言ってくれたから、参加します」

すると、少し不機嫌そうな顔をされた。

「聞いたよ一香から。俺も行くから」

「そう。じゃあ、またその時にね」

そして、パソコンに向かうと、営業で使う資料作りを始めた。

聡士は納得できない感じで、自分のデスクに戻る。

これで、私たちの噂も噂で終わる。

聡士の未来の足を引っ張る事も、これ以上一香を嫌いになる事もなくなる。

そう思えば、苦しかったほんの少しの時間が、懐かしく思えてくるほどだ。

大翔は信用できるもの。

ヤキモチもあるけれど、一香と何かある事は絶対にない。

これで、ようやく心が穏やかになれるというものだ。

そう思うと週末の飲み会が、急に楽しみになってきた。

そう言えば、琉二って人がいるのよね。

大翔たちの友達で、本当にいい人なんだと一香が言っていたっけ。

仲良くなれたらいいな。

遠回りをして、ようやく大翔の友達に会える。

それだけでも、じゅうぶん嬉しい。


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