火ノ鳥山の渇人
シーカーとはこの山に住んでから、ずっとナナシが狙い続けているシカの事だ。もちろん名は私が付けた。

「あのねぇ、あんたもう諦めないさいよ。何回チャレンジしてるの?」

「へへ…ロズ。今回は完璧なんだよ。まぁ騙されたと思って見に来てくれって。」

凄い自信だ。私には見えない。って事はとりあえず言わないでおこう。なにせ秘密基地を案内する子供のように、目は輝いている。

暫く移動するとキューキューと鳴き声が聞こえてきた。

「やったー!!見ろよロズ!シーカー捕まえたぞ!どんなもんだい!スゲーだろこの罠!」

だから私見えない…まぁいいか。こんな興奮したナナシの声聞いたのいつぶりだろう。私の目の事を知ってからというもの、やたら気を使ったり、妙に大人の振る舞いをしてた気がする。それはまぁ嬉しくもあったんだけど、反面寂しくもあった。だから久しぶりに聞いた子供のそれは、私を元気にしてくれた。

「凄いじゃん!やっぱ今までとは違う工夫をしたの?」

私はナナシが喜ぶであろう質問をわざとする。

「当然だろ!まずはシーカーの行動パターンを読む所から……ベラベラ……それで次はこの罠さ!これはね、前足がかかると自動的に蔓がお腹の方まで……ベラベラ……」

可愛いな。久しぶりに彼が年下の男の子に戻った気がする。

「シーカー!お前よくやったよ!だけどな、商人の俺の頭のキレには適わなかったな!」

彼は興奮すると頬の2本の傷が赤くなる。きっとなってるんだろうなぁ。と想像してたその時、何かの視線を感じた。
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