火ノ鳥山の渇人
私は地面に降りて杖で立っている。ナナシは葉に乗りフワフワ浮いている。恐らく罠は宙吊りにするタイプで、シーカーは逆さまの状態で木に吊されている。その吊されているであろう木の後ろから視線を感じる。

「ねぇナナシ、あそこらへん何か居ない?」

「え?何だよ人が細かく説明してるってのに…あ!」

「な、何よ。」

ナナシは何だかバツが悪そうと言うか、まごついてる。雰囲気でわかる。それが何かも察しがついた。

「子供…多分シーカーの子供だと思う」

「そうなんだ。そこまで連れてって」

蔓が伸びてきて、シーカーの子供の所まで案内してくれる。子供はとても小さく、そして震えていた。私はその小鹿をゆっくり、怖がらせないように抱き上げた。震えは一層増し高い声でキューキュー鳴く、シーカーは聞こえないのか、諦めているのか返事をしない。

「ねぇナナシ。凄く捕まえるの苦労したと思うけど…シーカー逃がしてあげない?」

「ん…ああそうだな!ロズに精力のつくモノをって思ったけど…この状況じゃあな。」

ナナシは左手を上から下にやった。シーカーは静かに地面へと下ろされた。
私達のこの行動は偽善かもしれない。今まで食べた生き物達の中に親子が居なかったのか?そんな事はない。そんな事
はないのだけど、目の前に見せ付けられると、その現実を一端放置し、救いたくなる。理不尽なものだ。

そんな事を考えた一瞬、私は激しく突き飛ばされた。
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