火ノ鳥山の渇人
「ロズはなぜこの山に入って来れた?」

お互いに体が薄くなったり、途切れたりしている。電波の悪いテレビのように。

ペドロもナナシの最後を分かっている。勝負に対しての悔しさはあるのだろうが、冷静に返事をする。

「おそらく私達に似かしい力を持つと思われます。どういったタイプの法力かはわかりませんが。」

「そうか。ロズはこの山に入った時から視線を感じると言い続けていたぞ。相変わらずツメが悪いんだよお前は。」

「私もこの山ばかり見てる訳じゃないんですよ。本体は遥か遠い都にあります。本日もまた演説などで忙しいんです。」

「……他の奴等は?」

「まぁ。程なくやっているかと。」

「そうか。」

2人共に体は無く顔だけになっている。本体に戻ろうとしてる思念を無理やりここに留めている。

「もう時間もないな。」

「そうですね。」

「ペドロ、もしロズがお前の所に訪ねに行ったら、手厚く対応してやってくれ。」

「もちろんです。彼女は法力の才能があるだけでなく、気高く、何より弱いものに優しい。」

「頼んだ。」

「……私から1つ質問させて下さい。もう思った疑問、そのまま言います。あなたはなぜ【主】を裏切ったのですか?」

もうナナシに残されたのは顔の下半分のみ、そして口をゆっくり動かし、

「結局、誰にもわからないだろう。当の俺だってよくわかってねぇんだから。」

そういうとナナシの分身は跡形もなく消えた。

………

わからないとはふざけた回答ですね。しかしあの人は【主】を裏切った。それなのにどうしてあんなに強い法力を操れるんだ?私は本当はわかっているのかも知れない。不退転。つまり誰より「主」に対する信仰を持っている。持ち続けている。だから……だからこそ!!

ペドロは納得したか、またはそうでないかのような表情をし、回りの火の鳥数羽と木々に残った火を連れて、消えた。
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