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ふと大きな影と風を感じて、隣を見上げた。
さっきの謎の生き物が地面に降り立って、巨大な翼を畳んでいる。
それは目を細めて茅野を見下ろすと、鼻を鳴らす子犬のような声を上げた。

見るからに機嫌の良さそうなその様子を見て、うさ耳フードの男は驚いたように言った。


「あんた、こいつに気に入られたのか……珍しい」
「珍しい?」
「こいつはドラゴンの子どもだよ。まだ二十週」
「ドラゴン? に、二十週?」


ドラゴンみたい、と同級生の誰かが呟いていたが、それも本当だったとは。

だが茅野の知る限りでは、ドラゴンは空想上の生き物の代表格といえる存在だったはずだ。
空飛ぶ巨大な爬虫類なんて、神話や伝承や物語の中にしか出てこないものだ。

茅野の表情には出ない戸惑いを、男は別のものと受け取ったらしい。
檻越しに手を伸ばして、ドラゴンの子供、とやらの顎に触れながら、言う。


「好奇心旺盛で、見るものなんでも面白がっておもちゃにしちまうんだよ。でも人の好き嫌い激しくて。生後半年くらいまではそんなんだから、客前にも出さないようにしてるんだけど」


珍しい、と言って驚いたのは、茅野が“ドラゴン”にとってはじめて見るものにも関わらず、おもちゃにされずに甘えられているためらしい。
食べようとしていたのではないとわかって、ひとまず安心した。

だが、うすうす勘付いてはいるものの、茅野は未だ状況を理解するには至っていなかった。
謎の巨大生物、彼のいうところの“ドラゴン”についてとりあえず捕食される危険を免れただけで、他にも危惧するべきことが次々と目に入ってきたのだ。


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