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「副園長ー」


間延びした声が聞こえて、二人は揃って振り返った。
小さな台車を引っ張りながら、長身の男が向かってくる。

着崩したツナギ。
ゆるく結った長めの髪が、綺麗な顔立ちを引き立てている。

歩き方はだらだらとやる気を感じられないが、彼はれっきとした飼育員の一人で、それなりに責任ある立場も任されている。
街のはずれで、客と触れ合える穏やかで危険の少ない動物たちが暮らす、『緑のゾーン』の担当だ。
名前は条(じょう)という。


この動物園島は、南に向かって扇を広げたような形をしている。
北端に港と小さな町があり、中央には、“事務所”と呼ばれる一番大きな建物がある。
そしてその周囲、東西南を、ぐるりと様々な環境の“ゾーン”が囲んでいるのだ。

ゾーンは動物の住環境によって大雑把に分けられており、魚類や水棲動物が住む『水のゾーン』、高山に棲む動物や樹木などが見所の『山のゾーン』、『ゼロガーデン』最多種類の展示を誇る『熱帯のゾーン』などがある。
条のいる『緑のゾーン』は小さな牧場のような形をとっていて、牛乳や卵を使ったソフトクリームやお菓子などを売る売店もやっていた。
いわばこの動物園の“入り口”のような場所だ。
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