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柊茅野(ひいらぎかやの)が元いた世界で過ごした最後の日は、高校生活最後の遠足の日でもあった。
遠足とはいっても、受験に疲れた生徒たちをバスに乗せて目的地へ連れていき、適当に散策させて弁当を食べさせて、集合写真の数枚でも撮って、またバスで帰るだけという、なんともやる気のないものだ。

高校三年生の秋。
本来なら、遊んでいる暇があったら勉強か就職活動でもするべき、という空気が流れる時期だ。
そんなものなのだろう。


その日の目的地は、郊外にある、少し寂れた動物園だった。
目玉になる動物もいない、空の檻が目立つ、入場料が安いだけの動物園だ。

到着した途端に生徒たちは適当にグループを作って散って行く。
茅野は残された“独り者”同士で行動する気にもなれず、一人で歩くことにした。

羽を切られたハクチョウのプール、落ち着きのないオウムがばさばさと羽ばたくだけの檻。
リスやキツネなど、身近な野性動物をなぜかわざわざ囲った檻。
アライグマは夜行性なので開園時間中ずっと巣箱の中、臭いのきついシカのいる方には近付く気にもなれず、一頭きりのメスのライオンは退屈そうにだらだらと寝ているだけ。

なんの見所もないが、それなりには楽しめる。
もともと動物は好きな方だ。


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