矢刺さる先に花開く
「重四郎、泣くでない…!」
声が聞こえた方を見遣ると、維盛と資盛が号泣する弟たちを慰めていた。
それを見た重盛は、遠い昔、己の母が疫病に罹った時のことを思い出していた。
――“清次、泣くでない!母上が一番お辛いのだ”――
涙を流す、まだ子供だった基盛――清次を励ましながら、己が一番泣きそうだったあの日を…
「母上ならきっと大丈夫じゃ」
「そうじゃ、だから……父上」
維盛たちの視界に、こちらを見遣る父の姿が入った。
「父上!母上は…母上の御具合は如何ですか」
「重四郎は…ははうえにおあい、しとうござります…っ」
やっと話せるようになった重四郎――あの宴の時に経子が身籠っていた子は、涙で顔をぐちゃぐちゃにしている。
息子たちに縋るような視線を向けられた重盛は、口を開こうとして、止めた。
赤子の泣き声が耳に届いたからであった。