瑛先生とわたし


今日の一樹は意地悪だ、僕が気にしてることばかりを言ってくる。


中学生は小学生とは違うんだとか言って、中学に入ったら急に偉そうな態度に

なった。

「瑛おじさん、瑠璃さんと結婚するのかな」 なんて、そんなの僕に言われて

も知らないよ。

「瑠璃さん」 って名前で呼んで、自分は何でも知ってるみたいな言い方も

腹立つし。

パパが、いつもは絶対乗らないタクシーで深澤さんの病院に行ったのは本当

だけど、だから結婚ってなんだよ。


おばあちゃんに言いにいこうと思ったけど、ガキみたいでやめた。

でも、いくとこがなくて、誰もいない和室の縁側に座って庭をぼーっと眺め

てる。

庭の奥に池があって、前は鯉がいたから石を投げると怒られた。

今はいないから投げてもいいよな。

縁側から降りて庭の石を拾って 「わけわかんない」 と言いながら池に向

かって投げた。



「なにがわからないの? 宿題かしら」


「べつに……」



いきなりおばあちゃんの声がしたからびっくりしたけど、平気な顔をして家の

方に戻ったら、お茶と大福が乗ったお盆が縁側にあった。

縁側にお茶と大福って似合いすぎ、ここに丸くなった猫がいたら、なんかの

CMみたいだ。



「パパから電話で、明日のお昼ごろ迎えにくるそうよ」


「うん」


「猫ちゃんをね、預かったんですって。明日連れてくるみたい」


「ウソっ!」


「本当よ」



いや、そうじゃなくて……

縁側と猫を想像してたら、おばあちゃんが猫って言ったからものすごく驚いた

んだ。

予知能力ってこんなのをいうのかも。

けど、数秒前の予知ってゼンゼン役に立たないよな……

予知とかってすごいかも! って気分が盛り上がったのに、自分で突っ込んで

自爆して落ち込んだ。

大福を一気に口に放り込んで、お茶をごくっと飲んだ。



「おうちに連れて帰って、マーヤちゃんとケンカしなければいいけれど、

相性が悪かったらウチで預かることにしたのよ」


「ふぅん、そうなんだ」


「縁側でお茶を飲みながら、そばにひなたぼっこをする猫ちゃんがいたら、

どこかのコマーシャルみたいだと思わない?」


「だね……」



おっどろいた、またあたった。 

僕って、やっぱり予知能力があるのかもしれない。

次に頭に浮かんだのは、オスの猫とタクシーと、なぜだか深澤さんの顔。

これはなんの予知だ?

浮かんだ映像の意味を必死に考えるけれど、意味がわからなさすぎて頭の中が

ごちゃごちゃになってきた。

タクシーって……と、自分で声にしたのも気がつかなかった。



「タクシーねぇ……渉、おばあちゃん思うんだけど」


「うん?」


「もしもだけど……もしも、渉に何か起こったら、

パパは迷わずタクシーに乗って駆けつけると思うわよ」


「えっ」


「渉はパパにとって一番大切なの、だからね、パパなら絶対そうするわ」


「そうかな」


「そうよ」



おばあちゃんの勘違いで話が変な方向にいったけど、僕は聞きたかった答えを

もらった気がした。

そうだよ、パパはママの事故があったからタクシーに乗らないと決めてたみた

いだけど、僕のためならきっとそうするはずだ。

それに……



「おばあちゃんやおじいちゃんに何かが起こっても、

パパはタクシーに乗ると思う」


「ふふっ、そうね。ありがとう、渉はいい子よ」


「へっ?」



なんで 「ありがとう」 なのか、どうして僕が 「いい子」 なのかわから

ず首をひねった。

なのに、首をかしげる僕を見てるおばあちゃんは嬉しそうだ。



「今夜はから揚げと、ひじきのふくめ煮よ」


「やったーっ!」



ひじきは嫌いだって子が多いけど、僕は大好きだ。

基本、黒い食べ物は好きだ。

小さいとき 「黒い色の食べ物は体にいいのよ」 ってママが教えてくれたか

ら好きなんだと思う。



                    
< 84 / 93 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop