瑛先生とわたし


「マーヤ、ますます美人になったね」


「三木さん、褒めてもダメですよ」


「なぁに、ウソじゃないさ。なぁ先生、マーヤが次に生む子を

譲ってもらえないかな」


「またその話ですか。そればかりは無理ですね」


「先生も頑固だな。先生のうちにはもう7匹いるでしょう。

これ以上増えてどうするんです」


「どうにでもなります。マーヤもソージも子どもたちもウチの家族ですから。

頑固は三木さんの方ですよ。諦めてください」


「先生、ひとつくらい私の希望を聞いてくれてもいいでしょう。

ウチの息子たちの嫁にほしいと言っても、子猫は譲ってもらえない。

先生にいい人をと思って、あんなに勧めたのに全部断って。おまけに……」


「その話はもういいじゃありませんか」


「ほら、そうやって話をうやむやにする。

先生の嫁さんは諦めたが、子猫のことは諦めませんよ」



あぁ……いい気持ち……

三木さん、ごちゃごちゃ言いながら、わたしをなでなでしてくれるんだもの。

三木さんの手って魔法の手だわ。

抱っこされて、ふにゃふにゃゴロゴロしていたら、龍之介さんの元気な声が聞

こえてきた。



「やぁ、どうも。三木さん、また瑛を口説いてるんですか」


「どうも、龍之介さんとこのお子さんも大きくなったでしょう……

それで、先生、さっきの話ですが」


「これから打ち合わせがありますので、申し訳ありません」


「これは失礼、ではまた。私は諦めませんからね」



怒ったようにどすどすと足を鳴らして、三木さんは工事現場に行った。

あぁ、よかった。

子猫たちと別れるなんて、そんなのイヤ。

先生が家族だと言ってくれたこと、嬉しかったな。



「三木工務店のおやじさんも粘るな」


「いい人だが、思い込んだら引かないからね」


「そこがあの人のいいところだけどね。

そうそう、パフォーマンスの音楽ができたんだ。聞いてくれ」


「本当にやるのか?」


「当然そのつもりだし、準備も最終段階だから引けないよ」


「俺はまだ全部を承知したわけじゃないぞ」


「おいおい、いまさらかよ。俺に恥をかかせるなよ」


「恥をかかせるつもりはないが、龍之介、おまえも三木さんと同じだ。

相当頑固だよ」


「あのおやじさんと一緒にするな。

書と舞踏のコラボってのは今までもあったが、

俺たちの企画は本格的だ。 絶対ウケる」


「別に、ウケようとは思わないよ」



龍之介さんが、先生の書とダンスをコラボさせたらどうかと言い出したときは

驚いたわね。


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