BRACK☆JACK~序章~
「………」
歩くのをやめて、憮然として後ろを振り返り。
人ごみの中同じく立ち止まった黒いスーツ姿の男に、つかつかと歩み寄る。
「あのねェ…」
その男の胸倉を、むんずと掴んで。
「あたしの後つけてくるなら、もっと上手く気配消してよねっ!! 」
言いつつ、思い切り男を殴り倒す。
ったくバカにすんじゃないわよ、と舌打ちをしてミサトはよじれたシャツの裾を直して。
「…もう、思いっきり巻き込まれてるんじゃない」
相手があの組織のナンバー2の実力者、ロンなのだから、自分の今回の任務に関係なくはない。
こうなるのも、遅いか早いかの差でしかないのか。
どっちにしろ、このまま知らぬ存ぜぬで通せる確率は、これで極端に少なくなった。
ミサトは、いきなり男を殴り倒した自分を遠巻きに見ている雑踏を押しのけ、走り出した。
何故か、その足取りは軽かった。
☆ ☆ ☆
ここは日本でも有数の歓楽街で、平日にも関わらず、メインである大通りには、沢山の人が繰り出していた。
そんな人混みの中では、相手も下手に襲い掛かっては来ないだろう。
エイジは、わざと大通りから離れずに歩いていた。
「それにしてもどこ行っちまいやがったんだ、あのヤローはよ」
店の場所を指定したところで、あの方向オンチが相手では、そんなに容易く合流できるとは思ってなかったが。
それでも、早いところ見つけ出し合流してこの国を脱出しないと、こっちの身が危険だ。
「いやまいったな…」
右手で、髪を掻きあげる。
怪我をした左腕の痛みはだんだん増してきて、それと同じ度合いで、足元も覚束なくなってきている。
エイジは煙草を取り出し、火を点けると「しょうがねェ」と呟いた。
時間を稼いでいる分、追っ手はどんどん増えている。
これ以上不利にならないためにも、何とかして相手を捲かなければならない。