今夜 君をさらいにいく【完】

その意味を込めて部下達に怒鳴ったりすることもあるが、こいつには伝わっているのだろうか。


そしてこの間注意している最中も、桜井は上の空の時があった。


だから俺は思わず中退した話を出した。


甘ったれるなと。社会は厳しいものだと教えたかった。


困惑した表情をみせたが、こいつの事だからすぐに立ち直るだろうと思っていた。


だけどこの日はいつになく口数も少なくなり、表情も暗いままだ。


少し言いすぎたのかと俺も思ったが、その心配はなかったと昼休みに確信した。



バイトの三条と楽しそうに話していたから。


三条の前では笑顔を見せていた桜井だが、俺と会うと気まずそうな顔をした。


まぁ、嫌われる事には慣れている。


こういう役の奴もいなければ人は気付かないし、成長もできないだろうし。



しかし居酒屋で会った桜井は以前と変わらない笑顔を見せた。



「あ!お疲れ様です!今来られたんですか!?」



「ああ、もう着いてたのか」



そう俺が言うと、桜井は元気よく「はい!」と応えた。


こいつは元気な所だけが取り柄だな。


だが、桜井も精神的に弱いのか、食いすぎたからなのか最近胃を壊している。


この前は顔を真っ青にさせていた。だから元気な桜井を見ると安心した。



< 65 / 234 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop