純愛短編集(完)

『新たな日常』

後1分…時計を真剣に見ながら心の中でそう呟いたのは、13か14くらいの、まだ女と言うには早い少女だった。

そして少女は、3…2…1…と心の中で数える。

「おーい!!学校行くぞぉー!!」

時間ピッタリに窓の外から少年の声が聞こえてきた。

「うるさーい!!毎朝なんの嫌がらせ!?」

少女も負けじと声を張り上げる。

少女の家に親はいない。

所謂(いわゆる)一人暮らしである。

なので遠慮なしに大声で会話出来る。

だが親は良くても、はっきり言って近所迷惑である。

扉を力任せに開け、少年の元へと駆け寄る少女。

その光景は、既に見慣れた光景だった。



冬の風がヒューっと吹き、少女は体を震わせた。

両手で両腕を掴んだ少女の首に、少年は無言でマフラーを巻いた。

そして少女の右手を、自分の左手と共に左ポケットへ強引に入れた。

そう、毎朝の見慣れた光景だった。

元々少年の熱で温まっていたマフラーを首に巻かれた少女は、その温かさと、マフラーに染みついた少年の匂いに、頬を赤らめた。

ギュッと握られた右手が、じんわりと温まるように感じた。

少年の頬も若干赤くなっていたのだが、少女はそれに気付かず、今ある幸せを噛み締めた。



放課後、いつものように二人で帰る帰宅路でのことだった。

横に並んでいる少年が、突然立ち止まって少女の名を呼んだ。

少女は不思議に思いながらも、少年の名前を呼びながら振り返った。

そして見えた少年の真剣な顔に、少女はハッと息を呑んだ。


「………好きだ」


少年も少女も、頬が赤かった。

その二人の頬の熱を覚ますように、風が吹いた。

「…あたしは………」



近所のとある人が、手を繋ぎながら帰ってくる二人を見て、呟いた。

おや?という言葉の次に、不思議そうな顔で。


「あの二人、なんであんなに幸せそうなんだろう?」


いつもの日常が終わり、新たな日常が始まろうとしていた―――



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