純愛短編集(完)

『笑顔』

高校生の女性が、とある学校に入り、下駄箱で上履きに履き替えた。

扉の上に『2ー3』と書かれた札がある教室に入ると、一番後ろの一番左の席へ迷うことなく足を進めた。

「おはよう」

席に座る前に、自分の前の席に座っている女性が声を掛けてきた。

その女性に、笑うことなく「おはよう」と言葉を返した。

「…ねぇ、知ってる?今日は一年間留学してたっていう男性がこのクラスに来るって噂があるんだよ?」


“一年間留学してたっていう男性が”


その言葉に女性は一瞬だけ目を見開いたが、すぐにいつものポーカーフェイスに戻ったので、話を続けていた女性は気付かなかった。

「笑顔くらい、見せてあげたら?帰国子女みたいな男性がこのクラスにやってくるなんて、滅多にないんだよ?」

その言葉に朝の挨拶以降、ずっと口を閉ざしていた女性が口を開いた。

「帰国子女というには、外国にいた期間が少し短い気もするけれど」

そしてまた口を閉ざした。

「そう?まぁ、細かいことはいいの!!とにかく、そのポーカーフェイスやめよう?」

女性は慣れているのか、普通ならムッとするだろう発言を軽く流した。

眉を下げて「笑顔、数回しか見たことないよ」と悲しそうに呟く女性。

その呟きを掻き消すようにチャイムが鳴って、言葉は聞こえなかったが。

そして、外国から転校してきたその男性を見て、彼女のポーカーフェイス、所謂無表情は崩れることとなる。



続きます
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