純愛短編集(完)

口を薄く開けて、目を軽く見開いている彼女の顔。

効果音を付けるなら、ポカン…という効果音が相応しい。

4歳の頃から中学3年生まで、ずっと一緒だった幼馴染。

そんな幼馴染が、高校1年生の期間だけ留学することになった。

彼女の笑顔、他の表情も消え、無表情になったのは…その幼馴染が原因だった。

そしてなんということだろう。

その原因の幼馴染が今、目の前にいるのだ。

この学校に転校してきた生徒として。

そして自己紹介も済み、席を決めるとき、彼女は表情を消し、「先生」と言った。

「私の隣、空いてます」

その言葉を聞き、先生だけでなくクラスメイトの全員が驚いた顔で彼女を見た。

彼女が自分からなにかを言う、つまり立候補するようなことは今の今まで一度もなかったのだ。

そんな彼女に「隣が空いている」ということでも、立候補させた彼はいったい何者だ?とクラスの全員が思った。

先生は驚いた表情のまま、彼に席に座るよう促した。

彼の一歩、彼が自分に近付いてくるという事実に、彼女の心臓は彼の姿を見たときよりも激しく暴れる。

「………久しぶり」

その言葉に、クラスにいる先生も例外なく全員が驚いた。

そして、彼女も「久しぶり」と言葉を返した。

今まで蕾のままだった花が、長いようで短い時を経て、花開いた。

そんな表現が一番合うのだろう、彼女の“笑顔”には。

人の噂も75日と言うが、75日で消えても、話の種としては消えないだろう。

2年生の間で、彼女の表情が柔らかく、もしくは穏やかになったと噂された―――



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