最悪から始まった最高の恋
  「彩菜(あやな)ちゃん。今日はバイトの子達が相次いで急に休みを取っちゃって、どうしても人手が足りないのよ。悪いけど助っ人でホステス頼めないかなぁ?」

お店のママさんからの突然のお願いに、彩菜は大きく両手を横に振り、即座に拒否の姿勢を見せた。

「ママさんそれは無理です。天国の父に叱られるし、大体ビジュアル的に没なランクの私がホステスとしてお店に出たら、店の子のレベルをドドーンと下げる事になりますし……。すみませんがそれはご勘弁下さい」

「困ったわ……。今日は太客(ふときゃく=お金を沢山落して行ってくれる太っ腹な客)なんだけれど、痛客 (いたきゃく=迷惑な客)でもある、大豪建設(だいごうけんせつ)の成田金造(なりた きんぞう)社長が来るのよ。バイトの子達は、成田社長の接客を敬遠して逃げたんじゃないかしらと思えるのだけれど……。今日は接待で大物のお客様と一緒にご来店の予定だから……。本当に困ったわ……。華やかに頭数を揃えるだけの、エキストラ的な感じで、本当に接客はしなくてもいいし、ドレスを着て席の端っこの方に座っていてくれるだけでいいのよ。そうしてくれたら、10万円払うから……。それでも駄目かしら?」

 ママさんは本当に困った雰囲気で、いつも凛としているのに、今日はオロオロと焦っている感じだった。痛客の成田社長は、しょっちゅう店の子とトラブったりして、皆敬遠してる疎ましい存在でもあるが、確かに毎月店にドーンとお金を落して行ってくれて、お店の利益に大いに貢献してくれている太客でもある。その成田社長のご機嫌を損ねる事になったら、お店の存続も危うくなるかもしれないぐらいのお客様だ……。いつも厨房にいてお客様の事は全く分からない彩菜であったが、そんな彩菜でも成田社長の噂は良く知っているぐらいの、このお店の中では有名な客であった。

 10万円と言う金額にはとても魅力があるし、ただ座っているだけでいいのなら、いいかなという気持ちにもなった。お父ちゃんが知ったらとても心を痛めそうな気もするが……。今日だけは目をつむっていて……。ごめん父ちゃん。

 ――だけど、この事が後で大きな間違いだったという事を、嫌と言う程思い知らされる事になるのだけど……。
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