最悪から始まった最高の恋
「まあまあ……。成田様。ようこそいらっしゃいました。さあ、さ。どうぞこちらへ……」

 営業用の猫なで声と飛びっきりの営業スマイルで、ママさんが成田社長を出迎える。
 いつも厨房に居るから、どんなお客様がお店にやって来るのかとか? お客様でにぎわっている店内の様子はどうなっているのかとか全く知らない彩菜は、もの珍しくてついついキョロキョロと見回してしまう。
 
 成田社長は40代後半で、ズングリムックリの全然いけてないオッサン! という感じで、しょっちゅうお店の子とトラブルにもなるような面もあるし、好色な雰囲気も漂い、私は生理的に拒否だなと彩菜は思った。
 成田社長と一緒に来店したお客様は、33〜5歳ぐらいだろうか……。社長さんのようなドーンとした風格があるし、背が高く容姿端麗で、女性にモテそうな男の色気も漂う。
 ズングリムックリの成田社長と並ぶと、美女と野獣いや、醜男とイケメン? って感じ? そんな事を想像していたらおかしくなって来て、ついつい口元が緩んでしまった。

 その顔をあのイケメン社長に見られてしまい、冷ややかな顔で睨まれてしまった。『おおーーっ。コワ……』と心の中で呟く。
 彩菜はママさんに言われたように、席の端の方にちょこんと座って、なるべく目立たないように小さくなっていた。

「おおっ。新顔の子か? さあさ……こっちに来なさい」
 
 (はぁっ?)と思ったら、成田社長が自分の方を見て、手招きしている姿が見えた。
 『いやっ。絶対に無理!!』その瞬間鳥肌が立った。あの厚ぼったいタラコ唇に油ギッシュなシワだらけの顏……。不気味!! 恐い!! キモイ!!
 彩菜はすかさずママさんの方に目をやり、助け船をアイコンタクトで送った。(それなのに……。それなのに……。)

 ママさんは、「あやなちゃん。こっちに来なさい」と、営業スマイルをふりまいて、手招きまでして来る……。
 その時彩菜は、(ブルータスお前もか!!)と意味も無く呟き、約束が違うとママさんに心の中で抗議し、信頼の気持ちが崩れていく音が聞えたような気がした。

 彩菜の隣に座っている、バイトのホステスの子まで、(自分に白羽の矢が当たらなくて良かったァ――)みたいな顔をして、成田社長の隣に行くように急かし出す始末……。

 『最悪〜っ!!』と彩菜は心の中で呟いた。
< 4 / 24 >

この作品をシェア

pagetop