もうひとつの恋
俺はこのまま帰したくなくて、今度は美咲さんの両肩を掴んで振り向かせた。


「やっ……!!」


そう言って抵抗する美咲さんの顔は、さっきよりももっと真っ赤になって、なんだか女の子みたいで……


俺はそんな美咲さんに驚いて、肩を掴んでいた手の力を緩めてしまう。


その瞬間、美咲さんは俺の手を振り切って、そのまま走り去ってしまった。


なんなんだ?いったい……


いつもの美咲さんとは違う女の部分を見せつけられた気がして、俺は動揺していた。


あの美咲さんが……?


まさか……


確かに美咲さんにはお世話になってるし、一緒にいると楽だ。


会いたいとも思うし、話を聞いてほしいと思うのも、いつの間にか美咲さんになっている。


だけど……


自分の中にあるひとつの可能性をそっと打ち消した。


明日また何でもなかったように美咲さんに連絡してみよう。


こんなことで俺たちの関係を壊したくない……


きっと明日になればいつも通りの美咲さんに戻ってるはずだ。


この時の俺は美咲さんの気持ちなんかこれっぽっちも考えずに、今の関係を保持することしか考えてなかった。


この後、美咲さんと会えなくなるなんて……


思ってもみなかったから……
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