もうひとつの恋
どうしようかな?


指定された店は駅からそれほど遠くないビルの7階にあった。


夜景が見えるお洒落な店らしく、母がネットで見つけてはしゃぎながら予約していたのを思い出す。


印刷されたクーポン券まで渡されて、俺はそれだけは勘弁してくれと断った。


「とっても素敵なお店みたいよ?

あーあ、一緒に行きたかったわぁ」


母は何度も残念そうに言ったけど、俺は「今度友達と行ってきたら?」とそれを全力で阻止した。


だけど……


小嶋穂香はそう上手くいかなかったようだ。


母親が俺の顔を見に来るって言ってたな……


俺はそれだけでプレッシャーだった。


もう会うこともないだろう人の母親と対面しなくちゃならない現実にため息をつく。


とりあえず先に店に入ることを決めて、エレベーターに乗り、7階のボタンを押した。


7階に到着してエレベーターのドアを開けると、モダンな空間が広がる。


母が来たがったのがよくわかるくらい、女性に受けの良さそうな洒落た作りになっていた。


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