もうひとつの恋



ベッドの上で携帯電話とにらめっこしながら、俺は課長の奥さんに連絡するかどうか迷っていた。


電話をかけようと勢いこんで帰ってきたものの、いざ彼女の番号を検索してみると、なかなか通話ボタンを押すことができないでいる。


もう離婚してしまったのに、課長と近しい関係の俺が電話なんかして嫌がられないだろうか……


そんな不安もあったが、一番はやはり自分の連絡先を知らせているのに、あれから一度も連絡をくれないことがネックになっている。


単に俺とはこれ以上接触したくないのか……


それとも俺に心配かけないようにしてくれているのか……


『桜井くんにはいつも元気をもらってる気がする』


そう言ってくれたことを思い出す。


ほんとにそう思ってくれているのなら、後者の理由だとうぬぼれてもいいのかな?


< 84 / 432 >

この作品をシェア

pagetop