朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
(忘れるんだ。忘れよう。

そしてもう二度と貴次には近付かないようにしよう)


 柚はそう心に誓った。


最後に見た悲哀に満ちた貴次の姿。


柚は貴次の頬に流れていた涙を必死で頭の中から閉め出そうとした。


けれど、脳裏に焼き付いてしまって、なかなか残像が消えない。


「柚様、温かいお茶をご用意しました。これを飲んで御心をお休めください」


「ありがとう」


 柚は由良からお茶を受け取ると、ゆっくりと啜った。


一口飲むと、なんだか喉が痺れて頭がクラクラしてきた。


 様子のおかしくなった柚を見ても、由良は眉一つ動かさずに佇んでいた。


「由…良……」


 今度は身体全体が痺れてきて、お茶を持っていることができず、椀が床に落ち割れた音が部屋に響き渡った。


柚はだんだんと頭が朦朧となり、床に倒れ込んだ。


そして、それを上から冷静な顔で見下ろす由良。


 柚は由良に助けを求めるように、手を上げた。


しかしその手は誰にも掴まれることなく、力なく床に落ちていった。
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