朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
柚は暁を見つめ、震えながら最後の力を振り絞り、血のべっとりとついた手で暁の頬を撫でた。


柚の目尻から涙が零れ、口元がわずかに動いた。


「何が言いたいのだ、柚。聞こえぬ」


 暁が柚の口元に耳を寄せた。


すると、暁の頬に触れていた柚の手が力なく地面に落ちた。


「柚!? 柚!? 柚っ!」


 暁の悲痛な叫び声が洞窟内でこだました。


柚はもう目を覚まさない。


どんなに叫んでも、どんなに呼びかけても、柚が戻ってこないのだと分かると、暁は柚の身体をゆっくりと地面に置き立ち上がった。


 茫然と柚の最期をみていた貴次だったが、暁が立ち上がると慌てて結界の力を強めた。


しかし、暁にはまったく効く様子もなく、なんなく結界を抜け出した。


「なぜだ! なぜ結界が効かない!」


 貴次は生気のない顔でゆらりゆらりと近付いてくる暁に向かって叫んだ。


暁はふと思い出したように立ち止まり、自分の両手の平を見て、そして悲しそうに上を見上げた。
< 212 / 342 >

この作品をシェア

pagetop