朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
紫宸殿といっても、一つの大きな建物があるわけではなく、広大な土地にいくつか建物があって、それらを含めて紫宸殿と呼ばれている。


その建物のどこに暁がいるのか分からないので、柚は気付かれないように身を隠しながら一つ一つ建物を覗いていくのだった。


まあ、気付いていないと思っているのは柚だけで、衛士(えじ)(宮廷を警備する兵士のこと)はしっかり柚が見えている。


 柚が紫宸殿に潜り込み、暁を探すこと数十分後。


暁が数人の役人を従えて、渡殿を歩く様子が遠くから見えた。


柚はその時、生垣に隠れていて、声を掛けたくても役人を従えているので呼びかけられない。


「暁!」と声を出したいのを押し殺して、渡殿を歩いていく暁を見送っただけだった。


 せっかくここまで来たのだから、少しだけ話したい気持ちはあったが、柚は暁の姿が一瞬見られただけで十分満足した。


仕事中の暁は、柚と一緒にいる時と違い、鋭い顔付きになる。


いつも優しく柚にデレデレしている時とは別人のようである。


柚は優しい暁も好きだが、堂々としていて鋭い目付きをしながら部下に命令を下している姿も好きだった。
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