朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
こっそりバレないように来て良かったな。


いいもの見れたし、とホクホクと温かい気持ちになったので、さて帰ろうと振り返ったその時だった。


「そんな所で何をしておるのだ?」


 目の前に、暁が立って柚を見下ろしていたので、柚は地面に尻餅をついた。


「わあ!」


 大きな声を出した柚に、暁は人差し指を唇に当て、「シっ!」と言って、膝をついた。


「小うるさい役人に気付かれたら、また叱られるぞ。さ、こっちに来るのだ」


 暁は柚の手を取って、前かがみになりながら小走りに小さな建物の中に入っていった。


そこは書物庫のような所で、沢山の巻物が保管してあった。


「ここなら滅多に人が来ないので大丈夫であろう」


 暁はニコリと笑って柚と向き合った。


先程、役人を従え鋭い眼差しで渡殿を歩いていた人と同一人物とは思えないほど柔和な顔だった。


いつもの暁に戻ってしまった、と思う一方で、この顔は自分にしか向けられないと思うと嬉しい気持ちになる。


「柚はまた平城宮内を散策する冒険をして遊んでいたのか? 小さな男の子みたいな遊びが好きなのだなあ」


 暁は困ったような顔をして笑った。


内緒で紫宸殿の中に入ったことを怒っているわけではなさそうだ。
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