エンドレス・ツール
覚えている、というのも語弊があるけど。


ていうか、それを最初に思い出したのが翔さんに押し倒された時だったから、完璧に言うタイミングをなくした。


居酒屋で意識を飛ばし、目が覚めたら暗い翔さんの部屋のベッドにいた。


暗かった上にあたしはメガネを外されていたから、細かいことはわからない。


翔さんはちょうどシャワーを浴びた後らしく、やはりメガネ姿で現れた。


たぶん、あたしはこの時から翔さんのメガネ姿に欲情していたのだと思う。


あたしはベッドの端に座って「もう大丈夫?」と聞いてきた翔さんにいきなり「抱いてください」と頼んだ。


当然、翔さんは困惑した。


「それはできない」と何度も断られた。


でも、あたしはこの時もまだ酔いから覚めていなかった。


なんでですか!と喚きまくり、ついには泣き落としという、女の子の特権である卑怯な手まで使った。


言っとくけど、正気のあたしだったらそんな手は使わない。女が泣けば男は黙るなんて考えは、男が強引に迫れば女は足を開くなんて下劣な考えと一緒だとあたしは思っているからだ。


正気のあたしだったらそんな小汚い手を使わず堂々と押し倒す。


だから、この時のあたしは、後で自分で振り返ってみても最低な人間だった。


そして、翔さんもそんな泣き落としにもひたすら「ダメだ」と言い続けた。


< 129 / 177 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop