Burn one's boats

「薫、ボートを燃やせ」

「いや、聞こえてたから! そんなに耳悪くないから!」

「そうか。じゃあ、燃やせ」

「頭大丈夫?」

この状況で逃げる道を捨てるのか!
それこそどうかしているよ!

「いいから早く!」

彼は僕をギロッと睨み、苛立たしげに指示をした。
不満に思いながらも、炎の呪文を放つ。

ボートは赤い炎に包まれたと思うと、真っ黒い炭へと変わった。

もうこれで逃げ道は閉ざされた。

黙って葵を見る。
彼は再び敵を見据え、静かに口を開いた。

「背水の陣って言葉を知ってるか?」

「知ってるよ。漢の韓信が趙(ちょう)と戦ったとき、わざと川を背に陣を敷き、退却すれば溺れる他ない捨て身の態勢で戦い、遂に敵を破ったって故事だよね?」

「……誰もそこまで聞いてない」

息を大袈裟に吐く葵。
眉を寄せ、彼は後ろを振り返った。

< 3 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop