重なる身体と歪んだ恋情


ほとんどが外国人の方で、誰が誰かなんてさっぱりわからない。

だけど一通り挨拶は終わったんだと思う。


「少し外の風にあたりますか」


彼がそう日本語で言ってくれたから。

彼に手を引かれるまま開け放たれたテラスへ。

室内より少しだけ冷たい風が肌を撫でていく。

やっと息が出来る。

作り笑いを消して空気を吸い込んで――。


「少しくらい英語は勉強してください」


なんて彼の台詞に息を飲み込んでしまった。


「学校で習ったでしょう」


習いました。確かに。

だけど、全然聞き取れないしなんて話して言いか分からない。

ううん。

たとえすべて日本語でも同じだったと思う。

こんなところで一体何を話せばいいの? これからの日本の行方? 世界情勢? 戦争の勝敗?

どれも私には縁遠い。

学生の頃は宿題のことや誰かの恋愛話、先生の秘密を共有したり、美味しい甘味処を教えあったり、なんて話だけだったのに。


「とにかく」


奏さんのため息が夜風に混じる。


「もう少しマシになってください。如月が話せますから相手をさせましょう。いいですね?」


これが夫と妻の会話だろうか?

誰がどう見たってまるで親子の会話だわ。

だけど、


「……はい」


私の選択肢はこれだけ。



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