重なる身体と歪んだ恋情

梅雨入り。

今日も朝から雨が降る。

こんな日は来客も少ないのに――。


「社長、桜井様がお見えです」

「桜井?」


聞き返す私に緑川は「はい」と肯定した。

彼の顔を頭に浮かべるだけでため息を付きたくなる。


「何の用だと?」

「是非、社長とお話したいと。お断りしましょうか?」


私の心境を察したのだろう。

出来れば居留守を使いたいくらいだが。


「そういうわけにも行きませんよ。応接室にお通しして」


なんといっても彼はわたしの義理の兄に当たる。

勿論続柄で言えば、の話。

尊敬すべきものなど何も持たない彼だが仕方ない。

緑川は私の声に小さく頭を下げると部屋から出て行った。

誰もいなくなって、小さく息を吐く。

何のために桐生の家ではなくここ(会社)に来たのか。

千紗に会いに、と言うわけでは無いのは明白だ。

本当に、馬鹿につける薬を誰か開発してくれないものか。

そんな馬鹿なことを考えながら革張りの椅子から立ち上がった。
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