重なる身体と歪んだ恋情
詳しく話を聞いてみるが口が重い。

これは既にいくらか金を入れているな。

よく見れば身なりもおかしい。

シャツの襟は汚れて無精ひげまで。

家に帰っていなのか? それとも別の理由か――。

仕方ない。


「で、いくらご融通しましょうか?」


私の声の台詞に彼はやっと頬の筋肉を緩ませた。

分りやすい。

こんな男を騙すのなんて簡単すぎて笑いが止まらないだろうな。

彼を騙したであろう『友人』のことを考えながら、彼の言うとおりの金額、100円を渡した。


「必ず返しますから! 本当にありがとうございます!!」


これが公家の末路か。

そう思うといささか同情もしたくなる。

まぁあの男のことはいいとして気になるのは家に残された老婆だ。


「緑川」

「はい」

「……いや、いい」


緑川よりも如月のほうが適任か。

如月は何度もあの家に足を運んでいるのだから。

にしても、


「イライラするな」

「はい?」

「なんでもない」


重苦しい息を吐き出してタイを緩め窓にたたきつける雨粒を見た。

梅雨と言うのはどうしてこんなにも鬱陶しいのか。
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