紫水晶の森のメイミールアン
 西の外れの石作りの家は、明かり取りの窓も少なく日中でも薄暗く、じっとりと湿気を帯び、部屋の隅の方は青緑の苔が生えてたり、黒いカビのような物も多数付着しており、長年誰も住んでなかった様で、空気も澱んで埃っぽい。

 数少ない窓の蝶番も風化で皆壊れてる状態で、窓から外れ落ちたガラス戸のガラスが粉々に割れて、石の家周辺に飛び散って、木枠だけになった窓枠の木も、長年雨風に晒され腐って、殆ど原型をとどめて無い哀れな姿となって散らばっている。

 何とか窓枠にぶら下がってるガラス戸も、殆どヒビが入ったり割れて無くなってて、風が吹く度に嫌な音を立てて軋んだり、パタパタと音を立て、夜になればとても不気味に違いない。昼間でもとても不気味だ。

 木の薄皮を重ね合わせた、こけら葺きの屋根は半分崩れかけ、殆ど屋根の役割を果たしてない雰囲気だ。 中に入れば、作り付けの石作りの台所の水場や、レンガを積み上げた暖炉、石おけの浴槽らしき物はあったが、水も通っておず、家具一つ無い。唯一家具と呼べそうなものは、腐って崩れかけたベッドが部屋の隅の方にあったが、布団はボロボロで湿気を含んで使える代物ではないし、傾いで寝る事も出来ない。

 それに蜘蛛の巣だらけで、時々ツーッと頭上から大きな蜘蛛が糸を引きながら下りてくるし、漆喰の壁や石の床は、どこからともなく大きなムカデやナメクジやミミズやら、不気味な見たことの無い虫やネズミがチョロチョロと現れては消えていく。

 あまりにもおぞましく恐ろしすぎて、大きな悲鳴を何度も上げて、何度も気が遠くなりそうになったが、こんな所で気絶などしたらと思うと心臓が凍りつき、気力を振り絞って耐え忍んだ。

 石の家の後方は鬱蒼とした森となっており、時々ギャアギャアと魔の使いの様な不気味な鳥の鳴き声や羽音がし、昼間はともかく夜はとても恐ろしくて耐えられないだろう……。
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