紫水晶の森のメイミールアン
 
 ――ここは、大陸一とも言われる強大国ラズナルフィ王国

 ルアンは10年前、今は若き王となっている、その当時第一王子だった、エメリオス・ラズナルフィ・キングラドロザス、通称エメリオス王子の正妃として、ラズナルフィ国と肩を並べる大国リリカルド王国から輿入れして来た。

 彼女の真実の名前は、メイミールアン・リリカルド・クィンアルロザス。通称メイミールアン王女。リリカルド王国の第一王女だ。

 その当時、今の王であるエメリオス王子が16歳、メイミールアン姫が6歳。

 メイミールアンの祖国リリカルド王国は、元々は、ラズナルフィ王国を凌ぐ程の大国で、ラズナルフィ王国が唯一脅威に感じている国だったが、メイミールアンの祖父王のある大きな過ちにより、国力はみるみる衰退を始め、聡明で偉大なメイミールアンの父王や、2人の兄王子の懸命な国政建て直しも虚しく、今は人々の記憶から忘れ去られてしまった幻の王国となってしまった。

 メイミールアンの父王は、娘の行く末を危惧し、まだ国の余力が残っている時期に、ラズナルフィ王国へ何度も打診して、政略結婚という形ではあるが、メイミールアンが成人した後は、次期王となるエメリオス王子の正妃とする確約を交わし輿入れさせた。

 まだ幼いメイミールアンを早々とラズナルフィ王国へ行かせたのは、国政悪化状況のリリカルド王国から亡命させ、身の安全を確保させる父王の親心があった。決してやっかい払いや政治的な道具として他国に嫁がせたわけではない。愛する娘の先々の幸せを願って、出来るだけ国政の安定した大国をと慌ただしく嫁がせた。それだけ緊迫した状況だった。 

 だがメイミールアンが正妃となるにはまだ幼すぎた事と、リリカルド王国があまりにも早く滅んでしまった為に、正妃となる事は無かった。

 いくら過去には大国とは言え、滅んでしまった国の王女など厄介者にすぎず、国の重臣達から一般民への降格や廃妃など様々な意見が飛び、その扱いに大もめに揉めたが、もと大国の王女という事で、他の諸外国の手に渡り、それを大義としてラズナルフィ王国に刃を向ける火種にもなりかねないとの事で、生涯王宮内に置いておくのが懸命という結論となった。

 扱いは、エメリオス王子の最下位の側妃で、名前は失った王国の王女という意味も込めてメイミールアン・ロストナルフィーに改姓させられた。王女のみが使用を許される“クィンアルロザス”を使用する事は禁じられた。

 ――厄介者の最下位の側妃。

 側妃とは名ばかりで、一生王の寵愛を受ける事など無いし、あってはならない身。王の目に触れる事も無き様に、立派な後宮殿に住む事は許されず、後宮より離れた見窄らしい石作りの小さな家に住まわせる事になった。

 メイミールアンの輿入れと共にやって来た、侍女達は全て暇を出され、身の回りの世話をする侍女は誰もつける事を許されず、まだまだ人の手を必要とする幼い身ながら、見知らぬ他国の中で1人で生きて行かなくてはならない身となった。
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