サワーチェリーパイ
そんな彼の姿を見て、陽生はそっと肩に手を置くと、涙をこぼした。


「晴斗、ごめん。もう少し早く気づいてたらお前と付き合ってたよ」
「タイミング悪いよな、俺」
「あたしもいけなかったんだ。樹の事とか、小説の事で頭が一杯で」


晴斗は胸の痛みを覚え、それを忘れようと拳で強く床板を叩く。


「出会いが早ければ、俺達はちゃんと恋愛出来たな」
「後悔しないでよ、あたしだって苦しいよ」


初めて聞こえて来た女らしい言葉に、顔を上げて陽生を見つめる。


そこには顔をクシャクシャにして、唇を噛む姿があった。


思わずそのほおに手を伸ばし、涙をぬぐう。


部屋の中にオレンジの夕日が流れ込んで来る中、2人はそっと抱き合った。


なぐさめ合うという意味だけではなく、ようやく想いが通じたのに、離れなくてはいけない辛さを分かち合うために。
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