コンプレックスな関係
陽典君は笑顔のままだったけど、少しだけ、言いにくそうにも見えた。
「…うん。まぁ、ね…。遥から聞いたの?」
それ以外に考えられないのだけど。
私がそう聞くと、陽典君は肯定するように苦笑をもらした。
「俺さ。あの頃より少し狡賢くなってるからさ。篠井の気持ちにつけ込みたいって、そう思ってるんだよね」
そう言って、陽典君は運ばれてきた飲み物に口をつけた。
……優しい人だね。陽典君。
本当に狡賢い人は、そんなこと口に出さないよ。
でも今は、その正直さがありがたい。
貴弥にはないもの。
一年半付き合っても私には、貴弥が本当のところ、私をどう思っているのかわからなかった。
陽典君は思っていること、考えていることを、口に出してくれる。
それはとても心地良くて、くすぐったい。