コンプレックスな関係


陽典君は笑顔のままだったけど、少しだけ、言いにくそうにも見えた。


「…うん。まぁ、ね…。遥から聞いたの?」


それ以外に考えられないのだけど。


私がそう聞くと、陽典君は肯定するように苦笑をもらした。


「俺さ。あの頃より少し狡賢くなってるからさ。篠井の気持ちにつけ込みたいって、そう思ってるんだよね」


そう言って、陽典君は運ばれてきた飲み物に口をつけた。


……優しい人だね。陽典君。


本当に狡賢い人は、そんなこと口に出さないよ。


でも今は、その正直さがありがたい。


貴弥にはないもの。


一年半付き合っても私には、貴弥が本当のところ、私をどう思っているのかわからなかった。


陽典君は思っていること、考えていることを、口に出してくれる。


それはとても心地良くて、くすぐったい。

< 68 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop