コンプレックスな関係

「遥ちゃんからさ、篠井の彼氏の話聞いてさ。篠井、辛くないのかな、ってずっと考えてた」


陽典君はゆっくりとした口調で、言葉を選んでいるのだと私にもわかった。


「篠井がその彼氏を嫌いになって別れた訳じゃないのは推測できたから。別れたとしても篠井がそいつを好きなら、黙ってようって思った。でも今、会って、考え変えた」
「陽典君?」
「篠井、すげぇ辛そう」


……この人、は。


私は言葉が出なかった。


遥でさえ気付いていなかったのに。


「篠井さ、別れた奴のこと、好きで好きでたまんないんだろ?」


そんな私の衝撃に気付いていないのか。


…きっと気付いてる。


でも、陽典君は言葉を止めなかった。


「俺は、ずっと篠井のこと忘れられなかったからさ。だからわかる。でもって、わかるからこそ、俺は篠井を大事に出来ると思う」


陽典君からはそれまでの笑顔が消えて、真っ直ぐに真摯な表情で、私を見ていた。


「今はまだ、恋愛感情じゃなくてもいい。でも、もし篠井の中に少しでも俺の居場所があるなら、俺とのこと、今度は本気で考えて欲しい。絶対、幸せにするから」


それはまるでプロポーズみたいだった。


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