オートフォーカス
「ちゃんと出席してるね、うんうん。」

該当者が出した疑問符の声に穏やかに微笑むと例の教授の笑顔がとてつもない圧力をかけてきたのだったのだ。

「大丈夫、カメラはちゃんと用意してあるから。アルバイト代も出るからね。」

いつもと変わらない穏やかな顔を見せる教授、その奥の強さを見た気がした。

強さとは圧力だ。

恐ろしい、さすがは様々な難関をくぐり抜けて教授になっただけはある。

押しの強さと圧倒的なオーラで逃げ場を無くしていくのだ。

よくよく考えれば、大学教授なんて黒く狭き門を生き抜いてきた人たち。

只者である訳がない。

思い出すだけで虚しさに染まる篤希の心を救ったのは頬張ったばかりの口の中に広がったレモンの味だった。

絢子がくれた飴、育てるつもりもない恋の花がゆらゆらと揺れた気がする。

絢子の優しさに触れて、また少し心が和んだ。

わざわざ走ってきてくれた。

それだけでトキメク。

それだけで簡単に夢中にさせてしまうのだ。

< 38 / 244 >

この作品をシェア

pagetop