オートフォーカス
それだけでも十分なのに甲斐甲斐しくお茶を渡してくれたり皿を片付けてくれる。

そんなお世話に男は、いや、少なくとも篤希は弱いのだ。

何かいいななんて思い始めたら抜け出せなくなる、何せ相手は誰もが憧れる高嶺の花。

溺れそうな気持ちを飴を噛むことで切り離し、ここに来た目的を思い出した。

腕には記録係の腕章、手にはカメラ、そして休みなしの走り回る数日間。

そんな状態に置かれた篤希。

自分の作品の一体何が良かったのだろう。

やっぱり腑に落ちない。

正直そんなに力を入れて撮った写真でもなかった。

それでも教授はあの笑顔で作品を良いように解説してくれていた気がする。

残念ながら記録係を任命された後に解説されたので全く頭に入ってこなかったのだ。

あまりのショックで口は空いたまま、暫く魂は旅に出ていたと思う。

素晴らしい、そう言ってくれたことはぼんやりと覚えているけど。

「素晴らしい、か。」

何がどう素晴らしいのか分からない。

もしかしたらただの押し付けかもしれないし。

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