緋~隠された恋情
抵抗したのははじめだけ、

平に飼いならされた私の舌は、

さらに深く陵辱されることを期待して

自らそれを求めにいく。



「はぅん…」


魂を吸い取られたようになった私を

突然突き放した。



!?


「はぁっ」



急に呼吸を取り戻した私の口腔は、

空気を吐き出し

再び吸い込んだところで、再び止まった。



平の視線の先を確認してしまったから。



「お兄ちゃん…」


いつから?


どうしてそこに?


私たちの姿を見ていたに違いない。


心臓を握り締められたみたいに

ズキンズキンと大きく脈打つ。



「よぉ新!、無事帰還おめでとう。

 中、盛り上がってるんだって?」


「ああ」


平はこんなあたしを置き去りにして

何にもなかったように、お兄ちゃんの肩を組み

スナックへ入って行った。



「…な…んで」



しばらくそこに立ち尽くし、

そのあとへなへなと地面に崩れ落ちた。


お兄ちゃんに見られた。


暗くて表情は見えなかったけど。


きっと傷ついた顔をしていた。



ここに戻ってくる時に、決めたばかりの決意が、

音も立てずに崩れていくのを感じた。







< 100 / 238 >

この作品をシェア

pagetop