緋~隠された恋情
俺の問いに、平は返事をすることはなかった。

しばらく隣に座って考え事していた平は、

苦笑しながら立ち上がった。



「俺は、生まれて初めて負けていると思った。

 悔しかったんだ。


 妬ましかった、

 自分の置かれている環境をに負けないお前らが、

 お前を裏切り、亜里沙を傷つけることで、

 お前らに並べてる気がしてたんだろうな。


 わざと、ひどいことお前らにしてきた。


 けど、俺なりにあいつを愛してたんだって…

 今になって気がついたんだ。

 …まあ

 何をいっても、

理解はしてもらえないだろうけどな。


 何やってんだろな俺、

 あいつ目の前にすると平常な頭で考えられなくなる。


  俺今日は、

 あいつを追い詰めたこと

 ホントは、 それをちゃんと謝りたかっただけなんだ。


 でも、目の前にしたら、

 取り戻したくなったんだ。


 けど、

 初めから、俺のものじゃあなかった。


 けど、俺、あきらめ悪い男なんだって今頃気づいたよ」


「平?」


「俺行くわ。安心しろよ、もう、これ以上お前たちにかかわるつもりないから


 じゃあな。」


平は俺より理性的な男だと思っていた。


けれど、

誰より人との心からのふれあいを欲していたのかもしれない。


俺たち兄妹のために、

何年もの間、自ら俺たちのもとにいることを選んでくれたのは、

俺を憎んでいただけではなかっただろう。


ありさに対する仕打ちは、

独占欲ゆえのことなのだろう。


それは、決して許すことはできない。


けれど、俺の親友として力になってくれていた平が

全て嘘だったとは思いたくない。


もう会うことはないかもしれない、

そんな予感がした。


不自然な形の関係を残したまま

平は去って行った。








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