緋～隠された恋情

「結婚て、

　具体的には今と何が違うんですかね？」


「そうよね、仲野さんの場合、

　姓もそのまんまでしょう？

　一緒に住んでるんだし、

　届け出す以外に

　変わるとしたら、

　……あっ」


「なんですか？」


水樹先生が真っ赤になって、

首をふりながら、

両手で顔を覆った。


「言えない…そんなこと、

　ここは学校だし……」


「え？」


「あとでゆっくり」

小さな声で耳打ちして、

コーヒーカップを片手に、

休憩室のシンクに行ってしまった。


「言えないって……」


あたしは首をかしげて、

後姿を見送った。


やがて、

昼休みの終了を知らせるチャイムが鳴り、

職員室わきをぞろぞろと教室移動の生徒が動き始めた。


「さて、切り替えて授業行かなきゃ。」

　掲示用写真と手順書を探して、

　立ちあがった。


「おくれてすみません！

　仲野先生、次お願いします。」

忘れていて、

迎えに来るのを忘れた係の子たちが

職員室に飛び込んできた。


「持ちます！」

私の持とうとした荷物を奪い合いながら

私の前を歩く。


かわいい。

私にもこんな頃があった。

こんな頃だったな、

両親が亡くなったのは。

もう、二人が亡くならなかったら、

私たちはどうなってたのかな？


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すべてのことが必然だったのだとしたら、

あの事故さえも、

今ある私たちのためには必要なことだったってこと？

きゅっと胸が切なくなった瞬間、

目の前のドアががらりと開いた。

私は、目をぎゅっと閉じて、

呼吸をした。


いけないいけない、

授業に集中しなきゃ。

生徒たちに続き教室に入っていくと、

ガタガタと音を立てて立ち上がる生徒たち

向かいあい視線を合わせると、

もう一度息を吸い込んだ。