緋~隠された恋情
大学入学を機に

その地獄のような日々から、

抜け出すことができた。




私の思いを穢し続ける男から


私の心を占め続ける男から



作り笑いをしながら、

兄の親友に穢されながらも、

健気に演じる妹という役から


私は解放された。




ただ、

まるで磁力の強い場所から

突然離された方位磁針のように

指し示す方向を見失って

しばらく自分の足で歩き出すのに時間がかかった。


そして離れてなお、指し示す方向は、

兄であったことを再認識したのだ。


愛される資格はなくても、

愛することを辞める必要などない。


平に歪められてはいたが、

方向性を見失うことはなかった。

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