緋~隠された恋情
玄関のあたりでコトリと人の気配がした。

「!?」

キッチンの窓の向こうに人影が流れた。


「徹平?」


玄関から転がりでるようにして通路に出た。

あたりを見渡したけど、

それらしい人影はなかった。


「おかしいな、確かに誰かいたのに。」


「どうした。」


「徹平じゃないかな、誰かが部屋の様子伺っていたの。」

カンカンと階段を上る足音。


そこに誰かがいたことは確かで、

それにすがるようにその音を追いかけた。


「おい、待てってありさ!」


止めるお兄ちゃんの声。


それでも、追跡をやめることはできなかった。


足音は非常階段の足音は、

すぐ上の階の非常扉の締まる音と共に消えた。

何故?


私も扉を開け上のフロアに踏み込んだ。


そこには誰もいなくて、

でも、カチャンとしまった瞬間の独特な音が、

真ん中の部屋で聞こえたのを聞き逃さなかった。


『宮池』、聞いたことない苗字。


その表札が、妙にざわざわとさらなる不安を煽る。


ゴクリと息を飲みこんで、

チャイムを鳴らす。


私の第六感みたいなものが、チリチリと首筋で危険を知らせる。



< 63 / 238 >

この作品をシェア

pagetop