愛を知る日まで
唐突に訪れた平和な環境に、俺はいつまでも馴れるコトが出来なかった。
新しい施設の職員も子供も腫れ物を触るように俺を扱う。
例え暴力から解放されても、そんな息が詰まるような生活は俺にとって苦痛でしか無かった。
そして一変した環境で俺は新たな拒絶を知る事になる。
「あら、そんな事も知らないの?」
それは施設の職員が何の気なしに放った一言だった。
何が原因だったかはもう覚えてない。
食事のマナー?挨拶の仕方?電車の乗り方だったか?
とにかく『普通』は『一般常識』として知ってて当たり前の事を、俺は知らなかった。
生まれてからあの施設のクズな大人にしか育てられなかった俺は、自分に著しく一般常識が欠けていたことを初めて知った。
事在るごとに繰り返される「そんな事も知らないの?」の台詞と冷やかな笑い。
それは虐待とは違った形で俺の心を叩きのめした。
“そんな当たり前の事も知らないなんて、お前はやっぱりダメな人間だね”
周囲の冷やかな眼がそう言ってる気がする。
自分を恥じる事がこんなに悔しいだなんて。
結局
どこに行っても俺の地獄は形を変えるだけで、終わりはしなかったんだ。