愛を知る日まで




狂ったように降りつける雨の音と、他に誰もいない園舎に響く時計の音。


そして何より二人の心臓の音に包まれて、まるで俺達だけがこの世界から隔離されているような錯覚を起こす。


この世にたった二人だけのような。





腕の中に、真陽がいる。



夢。違う、現実。



温かい。
ずっと欲しかったこの温もりが。


真陽。
真陽。真陽。


好きだ。大好きだ。


どうか。どうか。俺のものになって。



ありったけの想い。

どうやって言葉にしていいか分からない。

腕に力を籠める事しか出来ない。

華奢な身体が壊れないように気を付けながら、それでも力いっぱい抱きしめた。




「…っ、どうしてっ…、どうしてこんなコトする の…っ」




苦しそうに、真陽が言ったその一言で俺は我に帰った。


現実が、受け入れたくない現実が戻ってくる。


…『どうして』?


分かってるくせに。


分かってるくせに、分からないフリをして。


拒まないくせに、その手を伸ばさない。


残酷な女。業の深い女。
そして――



俺はゆるゆると腕をほどくと真陽の瞳をじっと見つめた。



――そして誰よりも、優しい女。





―――どうか、その罪深い優しさで


俺を受け入れて―――




その願いは、窓を叩きつける激しい雨の音に霞んで消えた。







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