愛を知る日まで





分かっている。真陽はもう俺の気持ちを。


分かっていて、目を逸らす。

分かっていて、俺を拒まない。

卑怯だ。けれど。


俺も分かっている。彼女が手を伸ばせない理由を。

婚約者と云う存在がそれを阻んでると云う事を。


だからせめて、答えが欲しかった。

せめて、目を逸らさずに俺の気持ちと向き合って欲しかった。けれど。



雨の降り頻る帰り道で、問い詰めた俺に彼女が紡いだ言葉は

あまりにも、汚かった。





「…だって、柊くんは仲間だから。同じぬくも り園で働く仲間だもの。だから、私、柊くんを 信頼してる。」




ズルい。
ズルい。ズルい。ズルい。



優しい手で俺を絞め殺す、残酷な女。




「……俺、あんたのコト、大っキライだ。」

大ッキライだ。


櫻井真陽。今までの誰より俺を傷付けるあんたが。今までの誰より俺に絶望を突き付けるあんたが。


この手に堕ちるのを頑なに怖がるあんたが。

大ッキライだ。




俺はこれ以上真陽の顔を見るのが耐えきれず、どしゃ降りの雨の中を駆け出した。


視界が滲むのが雨のせいなのか涙なのか自分でも分からない。


雨に濡れた服が肌にまとわりついて気持ち悪い。水を吸った髪が重くなって気持ち悪い。走るたびグズグズと水を溢れさせる靴が気持ち悪い。


…気持ち悪い。


「…っ、……っくしょう…!…畜生…っ!!」


駆け込んだ自分の部屋の玄関で、俺は踞って泣いた。


部屋にもあがらず、ずぶ濡れのまんま、地べたに丸くなって。



悔しかった。悲しかった。

初めて自分を、情けないと思った。

惨めだと、思った。


真陽に向き合ってさえ貰えなかった気持ちが。

慈しみでしか見てもらえない自分が。

好きな女と同じ場所に立てない自分が。

誰かを好きになれたのに、生まれて初めて恋が出来たのに、それさえ赦されない


間違っている自分が。









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