もう泣かないよ



 ずっと気付かなかったけど、海の向こうで泣いている女の人がいた。

 髪が長くて、華奢な体格で――

 いつだったか、健太が見せてくれた携帯の待ち受けにいた人だ。

 あの人が、健太の婚約者なんだろう…。

 俺が死んだら、海も。

 こうやって、泣いてくれんのかなぁ?

「…奏太」

 海に名前を呼ばれた。

「死なないでね?」

 その言葉が、胸の奥にずっと響いていた。


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