天神楽の鳴き声
施錠しますよ、という係りの人の言葉に、雛生たちは茗琅館を後にする。


「疲れたーぁ…っ。游先生絶対、私にだけ厳しいよね!!」

体を伸ばしながら、胡兎に言う。
「それだけ、期待してるのよぉ。だって、わたしとかがあの程度の間違いしても上手くいってます、って笑うだけだもの」


みんなは気づいてないけどね、と言う。いつも雛生を庇い慰めてくれる優しい友達で、この宮に入ってから知り合ったから、もう三年の付き合いになる。残念なことに雛生は気が強く、女子特有の付き合いが苦手のため、衝突が多く、胡兎以外上手く付き合えていない。

「…あぁ、みんなも笑いやがって…っ!!…いつか鼻の穴あかしてやるわ…!!…そういや、胡兎はどの色に振り分けられたいの?」

「んー、紅、かなぁ…、朱色(アケイロ)に選ばれたいんだ…わたしの一番の夢なの」


「そういえばそうだったね。紅かー。胡兎と同じがいいなぁ、私は」
「そんな考えでは天神楽に喰われてしまうわ、信心深くなければ」


紅の中には、ひとりだけが、選ばれる色がある。
それが朱色。祭典の主役にも成り得る存在で、うたと舞、両方を天神楽に捧げるのだ。そして、帝と婚姻を結び、子を産む存在。今は朱色が偶然空席なのだ。

朱色は羨望の対象で、究極の幸せの象徴、胡兎はそれを欲している。
誰しも、あの外の現状から逃げ出した雛生たちにとって、この場所は幸せではあるけれど、

雛生が三年で知ったことは、ここは、神に最も近く、地獄に最も近い場所という事実だった。

現に、三年で何人かの人間は天神楽に喰われている。

祈り、感謝されるこの御神木は人喰い木なのだ。
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