恋萌え~クールな彼に愛されて~

それは片付けもひと段落して
塚本が贔屓にしているお店から
出前をしてもらったお寿司のコースとシャンパンで
幸せな食事を終えた後、梨花がグラスと皿を
シンクへ運ぼうとした時だった。


「あ!」


不意に背後から塚本に腰を抱かれて
梨花は息が止まるかと思うほど驚いた。
体を硬くした彼女の首筋にかかる塚本の熱い吐息に 
ぞわ、と肌が粟立った梨花は思わず声を上げた。


「ん……ぁ」
「敏感」


そこに塚本の唇が触れると梨花の指先が震えて
手にしていた食器がカタカタと小さく音をたてた。


「あ……っ」


突然のことで動揺しているのに
皿を落とさずテーブルに戻した自分を
褒めてやりたいと梨花は思った。


「どうして、こっ…んな…?」


梨花の驚きは無理も無いし
疑問に思うのも尤もだった。
塚本はこれまで梨花に対して色めいた素振りも気配も
全く見せたことがなかったのだから。


しかし塚本は、困惑し自分に理由を問いかけてくる梨花になど
一向に構う事なく、彼女の首筋に埋めていた唇で
彼女の項を撫で、鼻先で髪を乱し、熱い吐息を散らしながら
梨花の耳朶を食んだ。


「や……」
「本当に嫌なら本気で抵抗してくれ」
「そんな」
「殴っても蹴っても構わない」


ズルい、と梨花は声にならない声で叫んだ。
こういう態度と言葉に男の狡さを感じてしまう。

強姦を和姦にする為のこじつけだと言われても
仕方がないじゃないの!と梨花は呆れてため息をついた。


でも塚本はそんな卑劣な事を思う人じゃない。
それはわかる。
大体、無理やり女を抱くなんて必要は
この男には無いのだから。
欲する欲さないに関わらず、女の方から寄って来る。
そういう稀有な男のひとり。
だからこそ梨花は思った。なぜ自分なのか、と。
もしかしたら塚本は自分に好意以上の感情を
いだいているのかもしれない、と
自惚れてしまいそうになる。


「あの、どうして?」
「ん?」
「どうして……私?」
「こうしたかったから。……君と」

< 10 / 48 >

この作品をシェア

pagetop