不思議の国の俺。
……俺だって。
小さい頃から、母親が居なかった。
友達の母親を見て、
どんなに羨ましかっただろうか。
どんなに哀しかっただろうか。
小学生の頃は、
涙ばかり流してきた。
なのに。
『涙は何処に置いてきた?』
そこで、現実に引き戻された。
「…ジ…?聞いてるの?ケンジ…」
目の前に居たのは、
涙に濡れた眼をした、
黒いウサ耳の、少女だった。
「……どした、トランプ」
「やっぱりね…聞いてなかった。」
ここで何故か、申し訳ない気持ちに
襲われる。
「あぁ…なんか、ごめん。」
「……別にいいんだけどね。
とにかく、嗅ぎ付けられる前に、
あなたは帰らないと。
行くわよ。
見つかったら…
“今度こそ“殺される。」
少し意味深な言葉に戸惑ったが、
すぐに手を引かれ、
その家から出た。